こんにちは。海保けんたろー(株式会社ワールドスケープ代表/ドラマー)です。
ライブハウスを取り巻く問題はしばしば議論になります。
例えばチケットノルマ問題、スタッフや飲食物のレベル、清掃状態、集客についてのスタンスなどなど…。
そんな中、先日出演させていただいた東京・吉祥寺のNEPOというライブハウスが「理想形に近い」と感じたので、今日はその話を。
理想のライブハウスとは何か?
まず前提として、ぼくがなぜ「理想に近い」と考えたのか?
その物差しについて話します。
個別的な要素、例えば
・照明が綺麗か
・天井が高く広々としているか
・アーティストに提示される条件が良いか
・スタッフの愛想が良いか
・立地が良いか など
一つ一つを比較したらNEPOよりもレベルの高いライブハウスは存在します。
しかしNEPOは全体的な「作りの設計」と「経営の設計」が素晴らしく、これは「これからライブハウスを作る人が真似できるフォーマットなのではないか?」と思ったので、ブログに書くに至っております。
では「作り」の話から。
NEPOの「作り」の上手さ
お店は1階と地下1階の2階層になっていて、1階はチケット代のかからないカフェになっています。
お客さんが入店すると、まずは手首にQRコードのついたリストバンドを付けてもらいます。
店内の飲食物の購入やチケット代は全てこのQRコードに紐付いて計上され、帰るときにまとめて精算という形になっています。スーパー銭湯とかでよくある感じですね。
1階カフェでは、各種ドリンク・食事・デザートなど本当に普通のカフェとして成立するメニューが揃っています。
開演前と終演後はもちろん、長丁場のイベントで疲れた時なども、ここで飲食しながら休憩することができます。
QRコードでチケット代を支払うと地下のライブエリアに入ることができます。
キャパシティーは100〜150位でしょうか。決して広くはないものの、ステージが見やすいように作られています。
地下にもちょっとしたバーカウンターがあり、ドリンクとおつまみがいつでも注文できるようになっています。
音はクリアで迫力のあるサウンド。
照明はいわゆる照明器具をあまり使わず、プロジェクターをステージ全体に映写することで非日常的な照明効果を生み出しています。
さらにステージ後方にはLEDモニターが6台ほど設置されており、リアルタイムのステージ映像が投影されています。これがまたオシャレ…。
そして完全分煙となっており、個室の喫煙ルーム以外は空気もきれいです。
お客さんはNEPOのカフェでただ飲食だけをして帰ることもできるし、チケット代を支払って1階と地下を行ったり来たりしながら楽しむこともできます。
NEPOの「経営」の上手さ
ぼくが特にすごいと感じたのは、これら全てが「経営的な視点で見ても、上手いバランスで構築されている」ということに気づいたからです。
これについては当日、NEPO立ち上げメンバーの森大地さんにもお話を聞くことができたので、彼からの情報交えてまとめてみます。
「経営の設計が上手い」というのはシンプルに言えば、
・初期投資を抑える
・継続的な支出を抑える
・売上を多くあげる
ための仕組み作りが上手いということになります。
そして売上を多くあげ続けるためには
・お客さんの満足度
・出演アーティストの満足度
・働くスタッフの満足度
を高い状態に維持しなくてはなりません。
まずNEPOの企画が持ち上がった頃、森さんたちはクラウドファンディングを立ち上げました。
NEPOのコンセプトを明確に提示し「これまでのライブハウスとは違うものになる」というメッセージを周りに広げて、見事366万円を集めて開店資金の一部にすることに成功しました。
開店コストが安く済むということは、オープン後にアーティストに要求するチケットノルマを引き上げなくても、初期投資が回収しやすくなるということです。
また、飲食物を充実させた上で全ての決済をQRコードで行うことにより
・なんとなくドリンクを何杯か飲みたくなる
・ついでにつまみを注文したくなる
・ライブ後に何か食べてから帰ろう的な気持ちになる
という効果が生まれ、通常のライブハウスよりもずっと飲食による売り上げが多いとのことです。
あと、音が良いという話と、LEDモニターの話。
これはオーディオ機器メーカーやモニターメーカーとのスポンサー契約を結ぶことにより、無償で提供を受けているそうです。
また「ステージにプロジェクターを映写している」と書きましたが、これは「たくさんの照明器具を設置する必要がない」ということを意味します。
電気代はプロジェクターの方がずっと安いのではないでしょうか。
秘密は物件自体にもあります。
率直に言って、立地としては東京都内のライブハウスの中ではかなり悪い部類に入るでしょう。具体的には吉祥寺駅と三鷹駅のちょうど中間エリアにあり、駅から15〜20分歩くことが避けられません。
もちろん立地が良いに越したことはありませんが、その1点を大胆に割り切ることによって「素敵な物件なのに家賃が安い」という大きな経営的メリットを取っています。
さらに極めつけ。
1階のカフェエリアについては、朝から17時までは別の方が借りているとのことでした。
その時間帯は別の店名で、普通のカフェとして営業しているということです。それによりさらに家賃が抑えられているのです。
経営が上手ければ皆が幸せになる
こういった数多くの工夫と経営判断によって、初期投資と継続的支出が抑えられ、売上が多くあがっています。
それは、アーティストにかけるチケットノルマを抑えたり、ギャラを支払ったりできることを意味します。
アーティストに好条件を提示できるということは、良いアーティストが出演してくれる可能性や、頻繁に出演してくれる可能性が高くなります。
これは言うまでもなくお客さんにとっても大きなメリットです。
そしてお客さんが支払った飲食費やチケット代が家賃や電気代に消えるのではなく、出演アーティストやライブハウスのスタッフに渡るのってなんか嬉しくないですか?
こういう設計こそが、経営の醍醐味だとぼくは思います。
NEPOは、森さんの豊富なライブハウス運営経験が詰まった箱だと感じました。ぜひあなたもNEPOに行ってみてください。
そしてライブハウス運営者の方はぜひ盗めるところを盗み、ライブハウスで働く方にとっても、アーティストにとっても、ファンの方にとってもこれまで以上に素晴らしい場所を作ってもらえたら嬉しいです。
この記事がヒントになり、ライブハウスを取り巻く環境がより良いものになることを願っています。
「 音楽活動で生計を立てるための全知識 」もご覧ください。ご好評いただいてます。
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