こんばんは。海保けんたろー(株式会社ワールドスケープ代表/ドラマー)です。

オリエンタルラジオの中田さんのブログ記事が、にわかに話題になっている。

>> オリエンタルラジオ 中田 公式ブログ – オリラジ中田、転売撲滅の画期的システム発表!

チケットの転売屋問題についてどう対応していくべきか、新しいアイデアを考えたから実行します!という記事だ。
これを考え、分かりやすく説明し、実行するということに、心から拍手を送りたい。

転売屋問題は音楽業界においてとても重要な問題であるし、それに対して一石を投じるこのアイデアはとても素敵だと思う。

だが、ぼくから見ると抜け落ちている発想があると感じたため、エールを込めて指摘したい。

具体的に言うと「チケットの購入タイミングが変化すること」について考慮されていないのだ。

以下、詳しく説明する。

ジャスト・キャパシティ・システムについて

元記事は長文であるし、読んでいないという方もいると思うので、中田さんのアイデア(ジャスト・キャパシティ・システム)について、まずはぼくの理解を共有しておく。

さまざまな規模の複数会場を「仮押さえ」する

会場未定のままチケットを販売開始する

最初の売れ行きを見て会場を決め、他の会場はキャンセル(仮押さえ解除)する

さらに売れ行きを見て、会場の座席数を決める

チケットはキャンセル不可だが、どうしても行けなくなった人は1000円引で転売できる

本当にライブに参加したい人のほとんどがチケットを購入でき、転売目的で買った人は大損する(解決!)

ということである(間違ってたら指摘してほしい)。

このアイデアだと、

・会場が、高確率で解除される仮押さえを受け入れなくてはいけない
・ライブ参加者が、購入時に会場が分からない

というマイナス要素があるものの、確かにトータルとしては素晴らしいように見える。

しかし、現実的にはこうならないとぼくは考える。

JCSの穴

ジャスト・キャパシティ・システム(以下JCS)を採用したライブは「チケットが(少なくとも早い段階では)売り切れない」というのが特徴である。

これは購入者側から見た場合「チケットを早く購入する理由(インセンティブ)」がない

多くの人は「早く買わないと売り切れちゃうかも」と思うから、発売直後に必死に購入するのだ。

それが逆に「1週間前とかでも購入できるはず」と思っていたらどうなるだろうか?

多くの人は「何か急な予定とか入るかもしれないし、もっと日程近づいたら買おう」と思うのではないだろうか。

しかもJCSの場合は直前なら、1000円引での転売チケットを購入できる可能性がある。

「どうしても絶対にこのライブに参加したい!」と思っている一部の特別熱心なファン以外は、そちらを視野に入れるのではないだろうか。

そうなると、JCSの前提は揺らいでくる。

「売れ行きを見て会場を決める」
「売れ行きを見て座席数を決める」

こういった判断が、正しくできなくなるのだ。

すると販売数の見積りを誤る可能性が高まり、

「小さすぎる会場を押さえてしまい、結局転売屋が儲かる」
「大きすぎる会場を押さえてしまい、ライブが赤字になる上にガラガラになる」

ということが発生してしまう。

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インディーズバンドの現実

「そんなことはない。行きたい人はちゃんと早めにチケットを買うはずだ」と思うだろうか?

その意見への反論は、すでに全国のライブハウスにある。

いわゆる「インディーズアーティスト」と呼ばれているバンドやシンガーソングライターのライブは、その多くが完売しない

例えばそういうバンドがワンマン(単独)ライブのチケットを販売した場合、だいたい売れ行きはこんな感じになる。

チケット発売直後に一部の熱心なファンが購入する

その後まったく売れない

ライブ1〜2週前からまた少し購入が入り始める

ライブ前々日〜前日が最も売れる

「少なくとも早い段階では売り切れないと分かっているライブ」のチケットに対する購入者の反応は、こういうものなのだ。

これでは、JCSのような動きが難しいというのは分かっていただけると思う。

「チケット販売を早めに終了すればいい」とか言われそうだが、
それはただ総動員数が減るだけなので、主催側・出演側としてはやりたくないのだ。

どうすればいいのか

否定ばかりを語っていても建設的ではないので、ではどうすればいいのか、という部分についても触れたい。

要は購入者側に「チケットを早く購入するインセンティブがない」という点が問題であるわけなので、
そこを作ってあげればいいのである。

とは言っても「早期購入特典(グッズなど)を用意する」などは、主催側の労力やコストになってしまう。

そこで、ぼくは「チケット販売業者が早期購入特典を用意すべき」だと考える。

具体的には「このサイト経由でチケットを購入すると、最初の100人にはTポイント1000p、次の100人には500p、次の100人には200pが〜〜」みたいなことをするのである。

Tポイントがいいのか楽天ポイントがいいのか、もしくはポイントではない何かの方がいいのか、というような議論は置いておくとして、
ライブ主催側ではなく、チケット販売業者が早期購入を促す機能を持つ、というのが重要なのだ。

そうすると主催側は「最も早期購入されやすいサイトでチケットを販売しよう」という選択ができるようになり、
販売業者間で健全な競争が行われるようになる。

チケットぴあ、ローソンチケット、イープラス、EMTG、Peatix、ticket board、tixeeboxなどなどの中の皆さん、ぜひご検討を。

繰り返しになるが、中田さんの考え方は素敵だと思う。成功してほしい。
だからこそ、率直に書かせていただいた。

JCS”改”が音楽業界を救うことを、期待したい。

「 音楽活動で生計を立てるための全知識 」もご覧ください。ご好評いただいてます。

[追記 2018年12月21日]
本人から反応きたー!